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ファーストエイドポーチは、基本的にはピストルベルトに装着する小さな帆布ポーチだ。ただし写真を見ていくと、ヘルメットのバンド部分や肩口に、もう一つ包帯らしきものを挟み込んでいる兵士がしばしば写り込んでいる。『バンド・オブ・ブラザース』の衛生兵ユージン・ロー(通称ドク)が奔走するシーンが印象的だが、彼らが実際に携行していたのもこのポーチだ。中身と、この「もう一箇所」の理由を整理する。
① 中に入っていたもの ― 実は時期でけっこう変わっている
基本の中身はカーライル包帯(Carlisle bandage)――滅菌ガーゼのパッドと、それを固定するための伸縮包帯が一体になった戦傷用の応急セット。防水のため、蝋引きの紙箱や缶に入れられた状態でポーチに収まっていた。
これに加えて感染症予防の薬剤が同梱されていたが、この薬剤の中身は大戦中に何度か変更されている。
- 開戦前:スルファニルアミド錠剤12錠
- 1941年:結晶状スルファニルアミドの粉末を振りかけるタイプの小袋(シェイカー・エンベロープ)1つに変更
- 1942年初頭:スルファジアジン錠剤8錠に変更。この錠剤は缶に入りきらず、ポーチの中に別に収めていた
- 1945年:粉末の小袋は完全に廃止。結晶状のスルファニルアミドが、かえって傷を汚す(感染を悪化させる)ことが判明したため
さらに1945年には、包帯の色が白から「フィールド・ブラウン」の染色入りに変更されている。理由は単純で、白い包帯は敵から視認されやすかったためだ。つまり、写真や現物で包帯が白いか茶色いかを見れば、大まかな年代の目安になる。
参考: History & Development of the Carlisle Bandage – WW2 US Medical Research Centre / Individual First-Aid Kits – WW2 US Medical Research Centre
② なぜヘルメットや肩にも着けたのか
ピストルベルトはすでに水筒・弾薬ポーチ・場合によってはナイフなどで混雑している。負傷した瞬間、あるいは仲間を手当てする瞬間に、ベルト周りを手探りするより、視界に入りやすい位置に予備の応急セットを置いておきたい、という発想自体は理にかなっている。
実際、これは単なる個人の工夫にとどまらない。「First-Aid Packet, Parachute」(パラシュート用ファーストエイドパケット、品目番号97785)という、①で触れたファーストエイドポーチとは別の、正式な支給品が存在した。もともとはアメリカ陸軍航空隊(USAAF)が落下傘装着者向けに、降下・着地時の負傷に備えて開発したもので、1942年の空挺部隊創設以降は空挺兵にも支給が広がり、D-Day初日の強襲部隊にも配られている。
このパケットは底面に縫い付けられた2本のテープで装備に固定する方式。最も多かった装着位置はM1936サスペンダーやウェビングだが、ヘルメットネットや足首に取り付けられた例も確認されている。つまり写真でヘルメットに応急セットらしきものが写っている場合、①のポーチ本体そのものではなく、この専用パケットである可能性が高い。
中身は当初、止血帯(タニケット)・傷用ドレッシング・モルヒネ入りシリンジの3点(FM 21-11 準拠)。1943〜44年頃にスルファジアジン錠剤8錠が追加され、1945年には①のカーライル包帯と同じ流れで、白いドレッシングがフィールド・ブラウンに変更、結晶状スルファニルアミドの粉末は廃止された(粉末がかえって傷を汚すことが判明したため)。
参考: The Parachute First-Aid Packet – WW2 US Medical Research Centre
③ 現行レプリカは何を再現しているのか

実際に入手して確認したところ、中身のカーライル包帯レプリカは同梱されておらず、ポーチ本体のみだった。ただし作り自体はしっかりしていて、特にフラップの留め具ははっきりとしたクリック感があり、確実に留まる安心感がある。走ったり伏せたりしても不意に開いてしまう心配は少なそうだ。
④ 考証判定:ここが罠になりやすい
中身が現代的すぎないか。 ポーチと一緒に「応急セット」として現代のガーゼや絆創膏が同梱されている商品もあるかもしれないが、それでは考証的には物足りない。当時のカーライル包帯の見た目(蝋引き紙箱・缶のパッケージ)を再現したものかどうかを確認したい。
包帯の色で年代がズレていないか。 1945年より前を再現するなら白い包帯、1945年以降(あるいは終戦間際)ならフィールド・ブラウンの包帯、という区別がある。「WWII米軍」とひとまとめにせず、狙う年代に合わせて選ぶ必要がある。
ファーストエイドポーチと、パラシュート用ファーストエイドパケットを混同しない。 前者はピストルベルト装着が基本の帆布ポーチ、後者はテープ留め式の専用パケットで、最も一般的な装着位置はM1936サスペンダー側。ヘルメット装着はどちらの場合も「あり得た装着位置の一つ」であって、全員がやっていた標準装備ではない点は変わらず注意。
買い方・調達ガイド
M1942 ファーストエイドポーチ 復刻品:
M1942 ファーストエイドポーチ(AliExpress・ベルトフック付き):
③で触れた通り、こちらはベルトに掛けるフック付きの、本来のM1942ポーチの形状。カーキとグリーンの2色から選べる。
より手軽な選択肢(AliExpress・キャンバス製ポーチ):
※正直に書いておくと、こちらは①のM1942ポーチのようなコンパクトな帯革クリップ式ではなく、ストラップ付きのやや大きめのキャンバスバッグ型。雰囲気重視の安価な選択肢として。
中に入れるものがない場合は、応急セットの代わりに裁縫セットを忍ばせておくのも手だ。ボタン付けやほつれ直しなど、実用面でも役に立つ。
携帯用ソーイングキット:

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